補正予算より為替介入を選んだ夜

7月28日午後4時27分、熊本県で最大震度7の地震が起きた。死者は30日時点で34人、断水は約14万戸に及び、半導体関連の工場が相次いで止まった。猛暑の中、避難所では余震への警戒が続く。2024年の能登半島地震以来の震度7である。

その2日後の7月30日、政権がまず動いた先は被災地ではなかった。夕方、高市首相は食品にかかる消費税を2027年4月から2年間、8%から1%へ引き下げると正式に表明した。そして同日深夜、ニューヨーク市場で大規模な円買い介入とみられる取引が行われ、円相場は一時1ドル164円台から158円台まで急伸した。政府は介入の有無を明らかにしていないが、市場は当局の関与を疑っていない。

為替介入は思いつきでは実行できない。実施水準の設定、外国為替資金特別会計の資金繰り、海外時間帯の執行体制。周到な準備があって初めて可能になる。減税の表明が円売りの材料になることを見越し、発表と同じ日のうちに市場で先手を打つ。その段取りの良さ自体は否定しない。問題は、同じ周到さが被災地に向けられていないことだ。

短時間で急激な円高進む 政府・日銀が再び市場介入か | NHKニュース

国会は7月25日に閉会したばかりである。政府提出の64法案をすべて成立させ、副首都法は会期を8日延長してまで2票差で通した。その3日後に大地震が起きた。しかし本稿執筆時点で、補正予算を組むための臨時国会を召集する動きは見えない。能登半島地震の際がそうだったように、当面は国会の議決を要しない予備費で賄うのだろう。だがその規模も方針も、まだ示されていない。

介入と災害支援は財布が別だ、という反論はあるだろう。円買い介入は外為特会が保有するドルを売る操作であり、一般会計の予算を使うわけではない。だが問われているのは金の出所ではない。問われているのは、政権の注意と労力をどこに割いたかという順序である。深夜の市場で巨額の作戦を遂行する周到さがありながら、断水の続く被災地への財政措置は語らない。減税の発表は予定通り行われ、臨時国会を開く話は聞こえてこない。

会期末に数の力で法案を通し切り、国会を閉じ、直後に災害が起きても既定路線を進める。この政権は、自分たちが決めたことを実行する能力は高い。足りないのは、目の前で起きたことに応じて優先順位を組み替える意思である。市場の急変には夜を徹して動く政府が、被災者の生活再建には日程すら示さない。この落差に、現政権の性格が表れている。

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雨嶋 弘
雨嶋 弘 | Hiroshi Amejima 深く考えなくていいことを、あえて深掘りする人。「漫言LOG」でゆるい思考の備忘録を綴っています。 ぼんやり考えていることが多く、活字とコーヒーがあれば大体幸せです。